




まだ私が中学生だった時、時々、大阪のお姉さんのアパートに遊び行っていた。父方の親戚で、美大生だった。
姉さんの部屋には、宝石のように色鮮やかな服で溢れていて、そこに座って飲んだ牛乳は、普段私が飲む麦茶とは違って、どこか異国の飲み物のように思えた。
お姉さんは時々、自分の持っている服を私に着せたがった。私なんか着ても、どこかぎこちなく恥ずかしかった。それでも、着替えるたびにお姉さんは喜んで、歯を見せて笑った。畳の部屋は小さなファッションショーだった。
部屋で留守番をしながら、私は棚にある本を盗み読みするのが好きだった。雑誌や画集、詩集なんかもあった気がする。その時もいつもながらに、本を物色していると、落合恵子の「45パーセントのしあわせ」から一枚のメモ書きのようなものが落ちた。読んでみるとそれは、お姉さんの自作の詩のようだった。
フォークとナイフをつかう料理なんて
だいきらい
つかい方がわからないんだもの
あんな料理よりも
大もりの中華ソバのほうが
おいしいのに
よっぽど
君も今日から中華に変えませんか?!
私は笑ってしまった。華やかに見えたお姉さんも、どこか無理をしていたのだろうか。
帰ってきたお姉さんが晩御飯、なに食べたい?と聞くので、私はちょっとにやつきながら「中華ソバ」と答えた。
そんな親戚のお姉さんにありそうな本のセットです。1973年刊行のもので揃えてみました。
メモ書きのような自作の詩は、本当に挟まっていたものです。なんとも味わい深いので、合わせてお送りいたします。
「装苑」1973年4月号
「ショッピング」1973年6月号
落合恵子
「45パーセントのしあわせ」新書館